2013年5月5日日曜日

日経新聞“「失われた時を求めて」の世界”


日経新聞で3月17日(日)から4週間連続で見開きの美術の欄に、
「失われた時を求めて」の特集が組まれました。

3月17日の第一回目は“現代に踏み出した花の都、才気を競う社交界の虚実”。
「失われた時を求めて」の舞台となったベル・エポックの時代を描いた
ジャン・ベローの作品を取り上げて、社交界の様子や街並みから、
プルーストが見ていた社会を分析しています。
具体的にこのような様子の社会で生き、自分の「精神」の在り様を探っていく
プルースト特有の作品のテーマをまず、ひもといています。


3月24日の第二回目は“倒錯する情念と嫉妬の炎、麗人像が彩る皮肉な愛”。
右のボッティチェリの左側の女性がスワンがオデットと重ねた女性チッポラ。
プルーストはラスキンを通してボッティチェリの絵画を学んでいたとのこと。
それがこのように作品に投影されていて、さらに偶像を重ねるということにより、
ひねられた筋に展開していく部分は、プルーストの考え方が現れていると
いえるでしょう。
そして、主人公の“私”がバルベックで出会う少女たちについても、
言及されています。
バーン=ジョーンズの「黄金の階段」という絵が影響しているかもしれないとのこと。


3月31日第三回目は“隠喩・幻視が織りなす神秘、絵を描くように言葉紡ぐ”。
この日経新聞のコーナーは美術を中心とした紙面なので、
この場合、「失われた時を求めて」と美術作品との関係を考察しているのですが、
単にあの場面で出てきたあの絵、というだけでなく、その絵や画家がどのように
プルーストと作品に影響を与えているのか、というところを深く追及しています。
すごく読み応えがあります。
フェルメールはプルーストが愛した画家の一人。その分重要人物ですね。
とはいえ、「失われた時を求めて」には約250人もの画家の名前があるそうです。
作品の中にはエルスチールという画家も登場します。エルスチールの作品を
表現している箇所は数多く割かれていますが、今一つわかりにくい。隠喩が多く、
勝手に印象派の作品かと思っていましたが、モデルはターナーではないかとの
ことです。これだけでも研究の価値あり、です。
私はまだ作品を半分ほどしか読んでいないので、この新聞に取り上げられている
絵画との照らし合わせにはまだまだついて行けません。


4月7日の最終回は“日常に潜む感情のドラマ、世界鮮やかに塗り替える”。
プルーストがいかに丁寧に集中して絵画を鑑賞していたのか、
シャルダンの作品を例に挙げてあります。
そして、イリエ=コンブレーを訪ねることで、プルーストの作品の原点に立ち戻り、
この「失われた時を求めて」の大きな魅力の一つである“感情のドラマ”について
語られています。

「失われた時を求めて」という作品は長大であるだけに、盛り込まれている観点も
数多くあり、その分読み方も多様になるでしょう。
この新聞掲載では、短い文章の中に、具体的な画家と、作品文中の箇所を取り上げ、
より明快に読み込む作業がなされています。
upした写真は雰囲気だけお伝えできればというつもりですので、
「失われた時を求めて」に関心のある方にはぜひご一読をおすすめいたします。

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