「浦からマグノリアの庭へ」 小野正嗣著 白水社
1970年大分県生まれの小野さんは、
作家として「にぎやかな湾に背負われた船」で三島賞を受賞されており、
また、クレオール文学の研究者でもあり、
大学でも教鞭をとっておられる教育者でもある方です。
フランスに長く留学されていた経験を振り返ったエッセイを
新聞に発表されていたものが、この本の軸となっています。
このエッセイでは著者がお世話になった人々を通して見知った
現代のフランスの問題(特に移民排斥問題)と、
作家マリー・ンディアイとのインタビューを取り上げることにより、
現代の社会の持つ隠されがちな人間の尊厳の喪失を、
重要な課題として考えるよう促しておられるように読むことができます。
これらは文学を通して行われる一つの問題提起でもあり、
書かれること、読むことによって理解され、
社会への布石ともなるものだと思われます。
この本では、エッセイのほかに、
数多くの本についてもページが割かれています。
ラブレーの翻訳についてW先生とM先生のことが書かれているのを読めば、
当然ラブレーを読みたくなってきますし、
ボルヘスについての部分を読めば、「図書館 愛書家の楽園」を
読みたくなってきます。
クレオール文学は今のところ縁がないのですが、
どうでしょう、クレオール文学に関するところを読むと、
「にぎやかな湾」を思い出して、大分“浦”⇒東京⇒フランスのミックスで、
小野さん自身クレオール感覚を十分にお持ちではないかと
想像したりします。
“ふるさとについて”という章は、
“ふるさと”らしい“ふるさと”を持たない者からは、
想像をめぐらすのが精一杯です。
デラシネには大江健三郎の本を読むのは困難なのかもと、
思い当たったり、
いやいや、知識と思考と想像力不足だわ、と反省したり、
読んだことのない本についての書評を手を引かれるようにしながら、
初めての読み方、ひも解き方を知ることとなりました。
著者の出身地の大分“浦”からフランスにおける“マグノリアの庭”へ
立ち位置と置かれた場が時間とともにずれてゆき、
さらに開かれた場へと変化しています。
感情面にも揺らぎを与えられ、
読書にも刺激を与えられる、
とても楽しく充実した時間を得ることができました。
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