2010年9月13日月曜日

「尼僧とキューピッドの弓」

「尼僧とキューピッドの弓」 多和田葉子著 講談社

あちらこちらで語られているとおり、
この小説は二部に分かれています。
第一部は「遠方からの客」といい、
一人の女性作家がプロテスタントの修道院に滞在し、
そこに住む修道女たちと知り合い、語り合います。
プロテスタントの修道院はどういう場所なのか、
そこに住むようになった女性たちはいったいどのような人なのか。
閉じられていると思い勝ちな修道院というところに、
どのような暮らしがあり、生があるのだろう。
語り手は読者の目となり耳となって覗き込みます。

そこで思いがけない事件を知ることになります。

ここまでは事実に沿ったものだと多和田さんは語っています。

第二部は「翼のない矢」。
事件の中心人物が語ったものなのか、
さてはて遠方からの客であった作家が想像したものなのか、
もう頭から読者は張り巡らされた蜘蛛の糸に絡められていくように、
語りに翻弄されていくのです。

多和田さんが体験したという修道院の出来事でさえ、
本当のこととは思えなくなり、
逆に第二部の内容が最も信頼できることのように感じられてきます。
第一部で女性を外側から描き、
第二部で女性を内面から描いて、
この小説は表裏一体になります。

この小説を読んでみて感じたのは、
多和田さんの作品ではノンフィクション的なものが個人的には
親しみやすいということです。
過去に読んだものも好ましく感じたのは「アメリカ 非情の大陸」でしたし、
「海に落とした名前」だったりしました。
フィクションの部分こそ多和田さんの真骨頂だとは思いますが、
たぶん内包的になっている部分が苦手なのだと感じています。

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