「光の指で触れよ」 池澤夏樹著 中公文庫
同じく中公文庫から出ている「すばらしい新世界」の続編にあたり、
あの仲の良い家族のその後が描かれています。
恋人を作った夫から離れ、妻は幼い娘を連れてヨーロッパへ旅立ちます。
息子は全寮制の高校へ進学しており、親たちの仲介役を務めます。
ばらばらとなった家族は、それぞれの今後の生き方を考えていくことから、
人間社会の在り様にまで思いを馳せます。
この家族を通じて、この世界における物の存在を確認し、
どのようにこれからを生きてゆくべきか、試行錯誤を体験することになります。
これからの生き方、家族の一つのモデルといっていいでしょう。
池澤夏樹さんとの出会いはずっと遡った頃のことです。
「マリ・クレール」で「エデンの東の対話」を掲載されているのを読み、
こんなに同じようなことを考えている人がいるのだ!と驚きました。
そこではアダムとイヴが対話形式で、
その当時の社会について、自然について、人間について、
語りあっていました。
もう20年以上前のことです。
急いで「ギリシアの誘惑」「夏の朝の成層圏」を読みました。
特に「ギリシアの誘惑」はとても好きなエッセイで、
ここにも既に池澤夏樹さんの広く深く豊かな世界観が現れています。
そして「スティル・ライフ」が発表され、
池澤さんが現在に至るまで多岐に渡る活動をされているのは、
周知のとおりです。
その間、気になる作品や、書評などをかいつまんで読んできましたが、
まったくぶれること無い池澤さんの生き方、思想のあり方を、
文学社会では大変評価されていることが嬉しく思われます。
文学の中だけではなく、実社会の人々にもっと読んでいただきたい、
と声を大にして言いたいところです。
小説がこのように世界を超えることができるのか、と
解説者の角田光代さんが述べられています。
文学や芸術は社会を写し、照らし、語り継ぎ、未来をも述べることが、
自由にできる世界ですね。
この小説の意義は角田さんの解説を読んでいただくとして、
どのように小説を読むかという自由もあるという面白さもあります。
個人的には大きなテーマを抱えているこの小説のいくつかの弱みも気になるところです。
ここから派生してくる物語も考えられそうです。
そのような問題提起も含め、充実した読書となりました。
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