「ピエタ」 大島真寿美著 ポプラ社
タイトル「ピエタ」と聞いて、
海外文学やキリスト教文化に関心のある人は、
知らんふりできないと思います。
これは、18世紀のヴェネツィアにあるピエタという慈善院で
育てられたエミーリアを語り手とする小説です。
話の軸にはかの音楽家ヴィヴァルディが居て、
ヴィヴァルディ没後のエミーリアを始めとする女性たちの結びつきが、
描かれています。
お話は巧みに入り組んでいて、
人物の設定も多彩で各々が重要な役目を担っています。
たいへん楽しく読むことができました。
全体を通して、柔らかな語り口と深い愛情が貫かれており、
それは作者の意図による語り手エミーリアの人物造型なのか、
穏やかなたたずまいが感じられます。
それは、逆に言えば、締りが無く、頼りなさも感じさせるものです。
個性的な役割を担う登場人物たちの人柄は伝わるものの、
人物の個性までは明確でなく、平坦に写るのも確かです。
主要舞台であるピエタそのものの存在感も薄く、
ピエタに住み、仕事に従事しているエミーリアとの関わりも、
あまり言及されていません。
ヴェネツィアの美しさも画家カナレットとサンダロという乗り物で、
海から眺めたときのような描写がもう少し深く描かれていたら、
さらに美しく感じられるような気がします。
18世紀のヴェネツィアの状況については、
そこに住む女性の目で見、感じることが書かれています。
そのあたりはしっかり感じ取られます。
先に述べた、エミーリアの視線にもう少しシビアな感覚が盛り込まれていれば、
さらに舞台、人物、ストーリーが際立ち、
骨格のしっかりした小説になったような気がして、
少しもったいない気がするのでした。
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