2011年1月12日水曜日

「ゼラニウム」

「ゼラニウム」 堀江敏幸著 中公文庫

第一章で読むのが止まってしまっていた「ゼラニウム」。
それは、その冒頭の一章は死の気配が強く漂っていたため。

気を取り直して第二章から再開です。
“さくらんぼのある家”というのも、
少々陰鬱な気配のする話だったので、
このまま進むのか?と思いきや、
第三章では若々しい女性が現れ、
猫が絡んでユーモラスな雰囲気が出てきました。
第四章はこれまた謎めいた怪しげな人々に
翻弄されてしまいますが、
この主人公“私”は思いもかけない行動に出ます。
第五章はパリに住むなら出会いそうな事件と
年配の人々が日本では考えられない言動を巻き起こすお話。
ラストの章は日本に出入りしている若き女性たちが
自由奔放な生活をおくる場所に思いがけなく巻き込まれてしまった“私”の
不思議な体験話。

いずれも「雪沼」などで接する堀江さんの作品とは違った、
また別の“私”の体験をロードムーヴィーのように描いた作品です。
常に落ち着いている“私”の内面が体験と結びついて、
想像力が膨らみ、常識と呼ばれるものの外側へ放り出され、
読むものは予想外のところに着地するのです。

“私”という人間に親しみを持ちつつ、
思いがけない体験をさせてくれる、
こんな小説読んだことが無い。

単行本で読んだときにはピンとこなかったけれど、
これは堀江さんの持つ多大な引き出しの一つなのでしょう、
恐れ入りました。

いつもの堀江さんの叙情豊かな感性が底辺でしっかりと“私”を支えていて、
堀江さんのファンにはたまらない一冊だと思います。

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