2012年6月3日日曜日
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」1974年
「スクール・ボーイ閣下」1977年
「スマイリーと仲間たち」1979年
ジョン・ル・カレ著 村上博基訳 ハヤカワ文庫
ジョン・ル・カレの作品として、スパイ小説の金字塔として名を残す
このスマイリーを主役とする3部作は、
知っている人にとっては周知のことでしょうが、
素晴らしく読み応えのある小説です。
スパイ小説ですので、謎解きや駆け引きがストーリーの牽引役です。
それ以上にスマイリーを中心とする人物の心理描写の書き込みが
リアルで緻密で読み応え十分、引き込まれてしまいました。
「ティンカー」はイギリス諜報部、通称サーカスの上層部に
裏切り者がいるようだ、スマイリー、君に調査を頼む、というところから
始まります。
読み落としがあると、先のことがさっぱりわからなくなるという、
仕掛けがたくさんあります。
スマイリーと共に少しずつ、頭をめぐらしながら、
一歩一歩と過去を解きほぐしていくのです。
「スクール・ボーイ」は同じ作業を必要としながらも、
エンターテイメント的要素も多く盛り込まれた作品です。
舞台も香港、東南アジアと雰囲気もずいぶん異なります。
「ティンカー」も泣かせるのですが、
こちらでも再び泣かされます。
3作目では、思いがけない展開で、スマイリーが頭と足を使って、
難問を解き明かし、一つの目標を達するまでに至ります。
が、この目標に達することがもっとも重要なことだったのか?
それによって全てが報われるのか?
いったい人生って、どういうことだろう?
スマイリーの生き方は、私たちにも疑問を投げかけます。
一つの答えは、“取り返しのつかないもの”。
スマイリーは小説の中で息をしているので、
現実的なわけではありません。
でも、リアルな人間像は一人の人間として確立されています。
それだけに、訴えてくるものがあるのでした。
20数年前に読んだときには、ただ楽しむだけだったのですが、
年を経てくると、なんだか他人事のように思えなかったりします。
どこか共有できる部分があるのでした。
他の初期のジョン・ル・カレの作品を続いて読みたくなってきました。
「死者にかかってきた電話」「高貴なる殺人」「ドイツの小さな町」等。
もちろん近年の作品も邦訳されており、
映画化もされた「ナイロビの蜂」は読んでみたのですが、
時代背景がずいぶんと変化していますし、
スマイリーほどの役者を作り上げるのは至難の業かな、と
思わされました。
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