2015年1月13日火曜日

「アラン島」

「アラン島」 J.M.シング著 栩木伸明訳 みすず書房


シングという人は、
1871年にダブリンの裕福な家に生まれ、
語学を学び、作家志望でパリの高級ホテルで優雅に悩んでいたところを
同じアイルランド出身の詩人イェイツと知り合い、
その内省的な性格からして、打開できない状況を、
アラン島に行くことで、何か得られるのではないかと、
進められたそうです。


当時のアラン島は、昔の生活がそのまま残っており、
天候に生活を左右された厳しい環境だったようです。


アラン島は3つに分かれており、
シングは特にイニシュマーンという島を主に滞在したようです。
この本では最初の4回の訪問がまとめられています。


何度も足を運ぶほど、
当時の都会とはかけ離れた魅力を放つアラン島。
そこでの体験は、生活に命をかけた人々に繋がるものだったのでしょう。
それでいて、生活する人々は気持にゆとりがあり、
詩を朗誦し、踊り、ゲール語、アイルランド語、英語をあやつり、
カトリックを信仰し、妖精の存在を信じる、
心の豊かさをたたえた日々を送っていたようです。


紀行文としては、そのたたずまいをそのまま伝えるものとして、
厳しさと美しさの共存を描いた秀作だと感じました。
面白いことに、このシングという人は、のちには戯曲家として
名を成す人だそうですが、とても紳士なのですね。
なので、アラン島の人々に対しても紳士として接していたようです。
そして文章にも踏み込んだ表現、文章はほとんどありません。
なので、気持ちよく楽しく読める反面、
シング自身が感じた感情面の起伏に乏しく、
少々物足りなく感じないわけでもありません。


訳者の栩木さんがアラン島を訪問した訳者あとがきが、
不明な部分のかなりを補っており、
この本をさらに興味深く感じられるようになっています。


栩木さんの翻訳文に美しさもこの本の良さの一つだと思われました。

0 件のコメント:

コメントを投稿