「密やかな結晶」 小川洋子著 講談社文庫
この作品は1994年に発表されたもので、
もうずいぶん前にこの世に出ています。
これほどの作品を読んでいなかったなんて、
自分でも出会えてよかったと思える作品でした。
舞台は島。
そこでは不思議なことが起こる。
想像できるでしょうか?
一つずつ物が消えていくのです。
それらは前触れもなく、消える運命だと皆が悟った時には、
皆が手元のそれらを焼却し、この世から消え去ってしまいます。
そして、何よりも恐ろしいことは、それらがこの世にあったという
記憶を皆が失ってしまうのです。
時間の流れのなかで、次々と消え去っていく物たち。
主人公は、父と母を亡くし、また消滅そのものに、
疑問を感じつつも、物が消え去ることから逃れることができません。
親しく気持ちを語ることのできる友人がいることが、救いです。
そしてその友人と大切な秘密を持つことになります。
事件が事件をよぶ展開といい、
大きなハプニングが起こり、はらはらさせられたり、
この不思議な事態を本当にあるように描かれていることに感心したり、
それでも、小川さんの筆が鈍ることはありません。
誇張されることもなく、淡々と物語は進んでいきます。
もちろん人の心のナイーブな部分もきちんと描かれています。
そして、ついに、最後であり、始まりでもある日がやってきます。
実に見事な作品で、言葉を失うほどでした。
というか、私好みの小説ということでしょうか。
息を詰めながらの読書は久しぶりのことでした。
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