「太平洋の防波堤」 マルグリット・デュラス著 田中倫郎訳 河出書房新社
アーノンクール指揮の「音楽の捧げ物」を聴きながら、
この本を読んでいました。
いつまでもこのバッハの悲愴感に満ちた響きと、
容赦なく照りつける太陽光を浴び、
東南アジアの湿った重い空気の中にゆらめく太平洋の波打ち際が、
まるで映画のワンシーンのように脳裏に残っています。
これは、デュラスの特徴である映画的視覚にうったえる作風のせいでしょう。
どのシーンもワンショットとして目に浮かんできます。
防波堤の倒壊に致命的打撃を受けて精神をまいらせてしまった母、
粗野ながらも、男性的魅力を発散させている兄、
女性へと変わりつつある時期にあって、冷静な娘。
彼女たちを取り巻く厳しい環境とそこに生きる人々。
そこへ娘にほれ込んだ男性が現れることによってドラマが動き出すのだけど、
基本的に人間も世界観も何一つ変わることがない。
この根幹の揺らがない部分から作者の声が聞こえてくるような気がします。
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