2011年7月20日水曜日

「未見坂」

「未見坂」 堀江敏幸著 新潮文庫

もったいなくも、さらさらと読んでしまいました。
堀江さんの短編小説には

“身近な人々が、そればかりか私たちのそばにあった事物や
 私たちを包み込んでいた風景が、たえず小さな私たちに
 傾けてくれていたにちがいない配慮を、世界とのそうした
 親密な接触を思い出すこと・・・そのような不思議な
 なつかしさに浸潤される体験”

をさせてくれると、解説の小野正嗣さんは述べています。
堀江さんの短編小説の魅力はこの解説を読めばすっかり
納得がいくのでした。

この本には9つの短編が納められています。
一つ一つ、これはこういう話なんだなとか、勝手に解釈して
読んでいますが、中には少々難しい大人向けの内容もあったりして、
ある程度の年齢を経た人のほうが味わいやすいような気もします。

個人的には、冒頭の一遍、
少年が友人と自転車を漕いで山の麓へでかける「滑走路へ」が好きです。
父の不在、懸命に生きる母とのコミュニケーション、
まだ小学生の幼いはずの少年が自分なりに考え、行動している様に、
一緒に伴走している気持にさせられます。

今日はその少年が友人と新たな冒険に出かける日。
飛行機がやってくる先を望ながら、空を仰ぐ姿が、
すがすがしく、心が晴れるような気持ちにさせられました。

もちろん、舞台となっている小さな町の様々な人々、
少しずつ見られる変化を取り上げている他の作品も、
どれもしっとりと心に馴染むお話ばかりです。

最後に小野さんの解説を読み、いつのときも人が求めているのは、
このようなぬくもりではないかと思うのでした。

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