「未見坂」 堀江敏幸著 新潮文庫
もったいなくも、さらさらと読んでしまいました。
堀江さんの短編小説には
“身近な人々が、そればかりか私たちのそばにあった事物や
私たちを包み込んでいた風景が、たえず小さな私たちに
傾けてくれていたにちがいない配慮を、世界とのそうした
親密な接触を思い出すこと・・・そのような不思議な
なつかしさに浸潤される体験”
をさせてくれると、解説の小野正嗣さんは述べています。
堀江さんの短編小説の魅力はこの解説を読めばすっかり
納得がいくのでした。
この本には9つの短編が納められています。
一つ一つ、これはこういう話なんだなとか、勝手に解釈して
読んでいますが、中には少々難しい大人向けの内容もあったりして、
ある程度の年齢を経た人のほうが味わいやすいような気もします。
個人的には、冒頭の一遍、
少年が友人と自転車を漕いで山の麓へでかける「滑走路へ」が好きです。
父の不在、懸命に生きる母とのコミュニケーション、
まだ小学生の幼いはずの少年が自分なりに考え、行動している様に、
一緒に伴走している気持にさせられます。
今日はその少年が友人と新たな冒険に出かける日。
飛行機がやってくる先を望ながら、空を仰ぐ姿が、
すがすがしく、心が晴れるような気持ちにさせられました。
もちろん、舞台となっている小さな町の様々な人々、
少しずつ見られる変化を取り上げている他の作品も、
どれもしっとりと心に馴染むお話ばかりです。
最後に小野さんの解説を読み、いつのときも人が求めているのは、
このようなぬくもりではないかと思うのでした。
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