「現代小説クロニクル1985-1989」
この1985年ころはいわゆるバブル時代と呼ばれる
異様に経済も景気も華やかな時期でありました。
この時期を頂点として、その後はあっという間に
複雑に変化していくのです。
若手の人々は新人類と称され、年長の人々からは、
理解を超えていると言われたのでした。
私も世代的には新人類にあたりますが、
今となれば、高度成長期に育った価値観を持つ子供たち、
時代の変わり目に立ち会ったといえるでしょう。
さて、ここには新しい時代にふさわしい作家たちが
登場しています。
「象の消滅」 村上春樹
「ユダヤ系青二才」 島田雅彦
「ジャッカ・ドフニ―夏の家」 津島佑子
「鍋の中」 村田喜代子
「スティル・ライフ」 池澤夏樹
「一ぺんに春風が吹いて来た」 宇野千代
「大きなハードルと小さなハードル」 佐藤泰志
「象の消滅」はその名のとおり、
飼育されていた象が世話係とともに、
いきなり消えてしまった話です。
ずっと象に注意をはらっていた主人公は、
その奇妙さに自分の感覚のバランスが崩れてしまったと語ります。
虚無と心理感覚のバランスがあやうくなるのは、
村上作品の特徴の一つだと思っていますが、
この小さな作品にも象徴されているといえるでしょう。
「ユダヤ系青二才」は初期の島田作品を思い出させます。
わざと小難しく書かれております。
若さとオリジナリティを求め紆余曲折する、
すなわち自分とは何者か?というテーマと読みました。
「ジャッカ・ドフニ」はかなり難しく、重いテーマの作品です。
それをすくい上げるように描写しながら表現する筆力に、
思わず感嘆しました。
津島佑子さんのほかの作品も読んでみたいです。
「鍋の中」は芥川賞を受賞していますので、
ご存知の方も多いことでしょう。
タイトルは地味目ですが、味わい深い作品です。
読みやすかったことも意外でした。
「スティル・ライフ」も芥川賞受賞作品です。
当時すでに池澤さんの小説やエッセイを読んでいた
人間としては、高い評価も当然と言う感じでありました。
今読んでも古さを感じない、個人的に好みの作品です。
「一ぺんに春風が吹いて来た」はその当時、非常に人気があった
宇野千代さんの古風な作品です。
この方の人生が華々しいだけに、かなりの御年になってから、
作品が再評価されたことは、今の年長の方々にも興味深いことでは
ないでしょうか。
「大きなハードルと小さなハードル」この著者について私は何も
知りませんでした。離婚の周辺について書かれていますが、
その頃からでしょうか、離婚は不思議でもなくなったのは。
ただ、人物設定としては、離婚もやむを得ないというようになっています。
これも今後に訪れる時代変化の布石であったと思ったりします。
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