2009年9月10日木曜日

「魔法」続き

昨日は「魔法」を読み終えたばかりで、
かなりの動揺ぶりを露呈してしまいました。
少し落ち着いて、振り返ってみましょう。

イギリスが舞台のこの小説は、
風光明媚な場所のクリニックにおいて
治療を受けている一部記憶喪失の主人公の場面から
始まります。
その主人公の現在おかれた拘束状態から
物語を動かすべく、一人の女性が現れますが、
主人公は彼女のことを覚えていません。

続く治療のシーンも意味ありげです。

現れた女性に関して、ある記憶がよみがえります。
その記憶は大変美しい旅の思い出であると同時に、
苦痛を伴ったものでもありました。

まもなく無事に退院し、彼女とともに、
過去の生活の場所へ戻ります。
そこで、彼女によって、
主人公の失っていた時間について語られます。

ここからが本番なのでした。
彼女が話す事実は奇妙で、 どうしようもなく、
袋小路に行き詰った状態です。
何が本当のことで、
どうつじつまを合わすのか、
今後どうすればよいのか。

不明で不安定で、居心地が悪く、
気味が悪く、何を信じればよいのか。

主人公の芯の部分はぶれないのに、
読んでいる者のほうが、
振り回されてしまいました。

真相を目の前にしながら、
病後の新しい生活を進む主人公は
大変冷静沈着な人間として描かれており、
山場を迎えた後、
ぴしりとピリオドを打つことになります。

この言いようのない内容と巧みな構造を持ち、
人物の心理の動きを微細に表現した
スリリングでいて、端正な作品を
見事にコントロールしている作者にお手上げです。
他にはどんな作品が書かれているのか、
怖いものみたさに、好奇心で一杯です。

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