2009年9月26日土曜日

「黒の過程」~その⑦

「黒の過程」 マルグリット・ユルスナール著 岩崎力訳 白水社

物語は終わりを告げました。
恩人の救いの手も功をなさず、
ゼノンは死へ旅立ちます。

ゼノンの思考や、恩人との問答は、
付いていくのが難しい部分でした。
結局、ゼノンその人のすべてを知ることは
他人には無理な話かとも思います。
ただ、ゼノンが受け入れた運命を
もう一度振り返ってみるのは、
ゼノンを理解するために必要なことでしょう。

 “接近しがたい事物の原則を、人間を象って
  作られたある個人のなかに閉じ込めるのもやはり
  冒瀆だとわたしには思えるのです。それでも意に反して
  わたしは、明日火に焼かれて煙をあげるのは、
  わたしのなかにいるなにとも知れぬ神だと感じるのです。
  あえて申し上げれば、わたしをしてあなたに《ノン》と
  言わせるのは、まさにその神なのです。”

『作者の覚え書き』
ユルスナールによって、本書の成り立ち、引用、
時代考証に必要とした書物について解説されています。
史実のなかにこのフィクションを織り込むためには、
数多くの資料を研究する必要があったはずです。
元になった作品はあったといえど、この作品を書き上げるには、
多大な時間と熱心さ、努力、知力、才能が動員されているに違いありません。

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