「世界は分けてもわからない」 福岡伸一著 講談社現代新書
著者はあくまでも科学者なのですが、
一人の人として生きている模様が
ところどころ伝わってきます。
科学者として充実した日々を送っている中で、
倦んでいた時期があったことを語っています。
そのときに出会ったのが須賀敦子さんの著書であったそうです。
“彼女の文章には幾何学的な美がある。
柔らかな語り口の中に、情景と情念と論理が
秩序をもって配置されている。
その文様が美しいのだ。”
須賀さんの文章をこのように分析している例を他にはほとんど知りません。
続いて
“ことさら惹かれたのは、本を書くに至るまで
彼女がずっと長い時を待っていたという事実だった。
幾何学を可能にしたのは彼女の人生に時間である。
彼女の認識の旅路そのものである。
彼女の本を読むにつれ、そのたたずまいに引きこまれていった。
彼女の歩いた道を彼女が歩いたように歩いてみたかった。
彼女が考えたように、自らの来し方を考えてみたかった。
彼女が静かに待ったように、私も何かが満ちるのを待ってみたかった。
その何かを知りたくて彼女の文章を何度も読んだ。
そしてますます彼女への想いが深まった。”
と書かれているのを読んでいて、
著者がまるで隣で語っているような気になりました。
須賀さんの読者で同じように想っている人がいる。
須賀さんの文章はそのように想わせるのです。
一人で歩いていくしかないと分かっていても、
道しるべとなるものがあれば、
心強く感じられます。
その道しるべを探すこともまた一つの旅です。
そうやって回り道をしたり、
寄り道をしたりして時を費やしていく。
須賀さんの本に出会って、
繰り返し読むうちに、
今この時を大切にしなければと
強く感じるようになりました。
その積み重ねが人生のようなものとなるのだろうと。
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