2013年6月16日日曜日
「おわりの雪」
「おわりの雪」 ユベール・マンガレリ著 田久保麻理訳 白水uブックス
少年は12歳くらいでしょうか。
お天気の日には養老院で年配の方のお散歩をお供することで、
収入を得ています。
貧しい家庭で、病床にある父と、夜にこっそりと出かけていく優しい母と
一緒に暮らしています。
ある日少年は露店でかごに入れられているトビを見つけました。
それからというものトビのことが頭から離れません。
からといってトビを簡単に買うこともできません。
雨の日や雪の日にはお年寄りの方もお散歩には出てきません。
養老院でのお散歩も人によって目に映ることも、
語る内容も異なります。
そんな仕事の帰りにトビがまだいることを確認して帰る日々が続きます。
寝たきりの父にトビの話を聞かせるようになりました。
父も見たことのないトビの話を楽しみにしています。
少年は自分の想像力をできる限り膨らませて語ります。
そして少年と父は語りあうのです。
ある日養老院で思いがけない仕事をすることになりました。
少年は戸惑わず、真正面からそのつらい仕事を引き受けます。
その後の経緯も少年はしっかりと見届けます。
しばらくして同様の仕事を頼まれましたが、
今度はもう少し困難な仕事です。
少年はその困難さを克服するために、
精いっぱいの仕事をします。
でも誰にもその話はしないのです。
その仕事のおかげで、多めの収入を得た少年は、
とうとうトビを買うことができました。
毎日父とトビが食事をするのを見つめるようになりました。
ひとときの幸福感。
養老院では避けられない人の死。
動物たちの死。
そして本当にやってきた父との別れ。
決して大げさには語られない少年の苦労や出会う出来事。
景色が印象的に広がり、
その中でトビの生命力が光ります。
作者の大切にしようとしていることが、
しっかり小説という形に作り上げられていて、
読者はこの少年はこれからもしっかりと生き抜いていくのだろうと、
納得できた上で、本を閉じることができます。
静かで、描写も美しく、そして小説らしい工夫が随所に見られ、
読んでいて自然になじむことができ、
澄み切った気持にさせてくれる小説でした。
マンガレリの作品は他も白水社から出ているので、
続いてuブックスになってくれたら嬉しいな、と思っています。
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