2015年2月17日火曜日

「うちへかえろう」

「うちへかえろう」 小川内初枝著 小学館文庫


こちらの単行本が出たのは2008年ということですから、
だいぶ時間が経っています。
そのときには、同世代の女性の話ということで、
時代性についてはあまり意識していませんでしたが、
現在の時点においては、とてもタイムリーなテーマと
思われます。


35歳の主人公は大阪市内で一人暮らし。
疎遠になりがちだった隣町の両親の家には、
最近はよく顔を出すようになりました。
近頃、両親の様子に変化があるのです。
両親の様子をみながら、血縁の深さを悟る主人公です。
物語は、長い間不通だった姉の電話番号を知ることから、
流れだします。
姉とは複雑な関係にありましたが、電話をかけてみる主人公。
やはり姉妹であるからか、こわばりながらも、
少しずつ距離が近くなっていきます。


家族を描いた作品ですが、
主人公の心の揺れを目に見えるように表現し、
職場の様子をもリアルに書き出しているところは、
小川内さんの真骨頂でしょう。
ナイーブさと客観性の同居です。


 “だから、現実を生きていかなければ、と思う。
  私はこうして働いて、人とともに笑って、ちゃんと生活して、
  そういう穏やかな現実が一つ一つ事実になって、
  積み重なって、「私」を作る。そして、私の居るところが、
  居場所になる。”


とても好きな章の一場面です。
本当にそうですね。


挟み込まれた主人公のいくつかの挿話も自然に馴染んでいて、
職場のエピソードもなかなか興味深く、
(他人事とは思えなかったりしまして)
身近に感じられる充実した読書となりました。


小川内さん、
とってもよい作品をありがとう!

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