2009年12月20日日曜日

「空間の旅・時間の旅」その③

「空間の旅・時間の旅」マルグリット・ユルスナール著

3つ目は
「ああ、わたしのお城、きれいなお城」 北代美和子訳

ここでいうお城とは、パリから南西に行ったロワール河近郊の
シュノンソー城を指しています。

ルネッサンス期に形を整え始めた
シュノンソーは幾人かの女性を中心として、
多難な歴史を積み重ねてきたようです。
ユルスナールはシュノンソーを彩った様々な出来事、
歴史的事実や逸話を積み重ねてゆきます。
もう伝説化してしまった古い過去が、
この城に刻み込まれているのです。
時代とともに、城の役割は変化してゆき、
フローベールが訪れたころには、
観光の対象として落ち着いていました。

城が見つめてきた歴史を作ってきたのは、
史実に名を残している人々だけではありません。
菜園、庭、森を維持管理してきた人々、
城の中で名のある者に使えてきた人々、
多くの人間がその歴史を支えてきたのです。
そして、人のみならず、様々な動植物も
城を取り巻く環境を育んできました。
そのあたりにも目を配り、
物語を読み取るユルスナールの洞察力と配慮が
この文章を締めくくっています。

筋があるわけでもないこの文章は
少々読みにくかったのですが、
ユルスナールが一年以上かけて下調べをし、
成したこのエッセイに納得するところもありました。
ユルスナール調になると、
史実と作者の意図が錯綜し、
音色を聞き取りにくくなるようにも思えます。

この「ああ、わたしのお城、きれいなお城」の原題は、
“Ah, mon beau Chateau”ですが、
童謡のような邦題は、
少々内容とは一致しないような気がします。

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