「失われた時を求めて」 11 第六編 逃げ去る女
マルセル・プルースト著 鈴木道彦訳 集英社文庫
この巻はリーヴル・ド・ポッシュ版(1993)の「逃げ去る女」を底本と
して、他の諸版を参照して訳されたとあります。
訳者の鈴木さんが冒頭でことわっておられるように、
この巻については、複雑な経緯があるようです。
①大戦中に書かれた「自筆ノート」
②「タイプ原稿1」生前最後の修正が加えられたもの
③弟ロベールらの修正の入った「タイプ原稿2」
があり、それぞれ問題があるとのこと。
今回のリーブル・ド・ポッシュ版は「タイプ原稿1」の刊行者によるもので、
比較的新しい版ではあるが、これにも不備はある、ということです。
などなど、なぜ問題なのか、不備であるのか、は、
“はじめに”をじっくりお読みいただきたいと思います。
プルーストがどういう編にしたかったのか?
そこが一番のポイントですね。
さて、この本では、
アルベルチーヌが“私”の家から去り、叔母の家に行ってしまった、
というところから始まります。
当然ながら、自分の本心、どうすればよいのか、などと悩む“私”です。
腹心の友サン=ルーに、叔母さんの家を訪ねてもらうことにしました。
アルベルチーヌから電報が届き、また私は手紙を書きます、
また彼女から手紙が届き、私は返事を書き、そしてサン=ルーが
帰ってきます。彼の話を聞いて、また悩む私。
と、そこへいきなりアルベルチーヌが落馬して死んだという知らせが。
こんな風に経緯を書けば、単純になりますが、
このあいだの私の心の内は嵐のようです。
すごくシンプルに考える人にはわからないかもしれませんが、
悩む人には、とてもよく読み取れることでしょう。
それも、亡くなってしまったとならば、いったい・・・。
4分の3ほど進んだところで、
“私”は母に連れられてヴェネツィアに向かいます。
念願のヴェネツィアです。
ですが、心が沈んでいるからか、とても冷静な眼差しで、
ヴェネツィアを歩いています。
これは意外な気がしました。
もっとボリュームのある内容になっているだろうと勝手に予測していたので。
母と一緒であったことにより、気持ちが落ち着いていたのかもしれません。
さらりと書かれているだけに、読み落としも多いような気がします。
もちろんヴェネツィアでもアルベルチーヌのことが思い出されます。
ヴェネツィアからの帰り、思いがけないニュースが舞いこみました。
ジルベルトとサン=ルーが結婚するというのです。
知識として知ってはいても、思いがけない展開ですね。
さて、アルベルチーヌが去り、新たな縁組があり、
“私”にもどのような変化があるのか、気になるところまできました。
“私”は今後何を語ろうとしているのでしょうか。
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