2015年9月16日水曜日

「黒ヶ丘の上で」

「黒ヶ丘の上で」 ブルース・チャトウィン著 栩木伸明訳 みすず書房


1800年代も終わり、ウェールズの田舎家に双子の男の子が生まれました。
名はルイスとベンジャミン。
この物語は主に彼らのお話です。


彼らの父となったエイモスは、やもめでありましたが、まだ若く、
ある日美しい女性と知り合い、心を寄せ合うようになります。
その女性こそ、双子の母となるメアリーです。


メアリーは牧師の父とともにインドなどで暮らした経験もあり、
世界が広いことをよく知った女性でした。
エイモスと結婚し、牧場での暮らしが始まり、
その苦労は大変なものでありましたが、
双子と下に妹に恵まれ、彼女は自分の生活を大切にしながら、
生きていくのです。
そんな母の元に守られ、育ち、影響を受け、双子は牧場の手伝いをし、
暮らしていきます。
父エイモスは生粋の地元の人間、少々荒く、粗い男性です。


双子が育つ間には、周りに色々なタイプの人間が現れ、
風変りな生活をしている人もいます。
そして衝突や事件も起こるのでした。


成人し、戦争が始まり、出征しなければならなくなり、
彼らもつらい経験をします。


祖母を亡くし、祖父を亡くし、牧場で使う道具も変化していきます。
車も走るようになり、トラクターも導入されました。


近所にやってくる人間たちは、時代に応じたタイプが現れて、
それについていけない双子と母メアリーに同情したり、
不憫に思ったり。


妹はあまり登場しません。いつのまにやら、男の子を残して、
この世を去っています。
その甥っ子が双子の前に現れます。
結婚せず、子供のいない双子にとっては、唯一の親族。
その甥っ子、ふつうの現代っ子です。


母メアリーを亡くしてからは、双子は、
彼女の思い出を大切にしながら、生きていきます。
その思いはとても深いものです。
それが、双子とこの物語を支える柱となります。


双子はそれぞれ性格が違い、個性があるわけですが、
その違いを互いによく理解しています。
それにより、生活や仕事が成り立ってもいるのでした。
それがこの物語の中心であり、面白さでもあります。


彼らが80歳を迎えたとき、とても思いがけないプレゼントがありました。
これもこの物語を結ぶ大きな節目となります。


数々のエピソードを織り交ぜ、感心したり、吹き出したり、
ぞっとしたりを繰り返し、繰り返しの物語。
双子の生活は基本的に変わりなく、淡々と続いていくのです。
それが、この百年に渡る物語、黒ヶ丘の上でおきたことでした。


とくに変わった物語でもないのですが、
書き手が登場人物に息を吹き込んでおり、
皆、生き生きとしています。
彼らの生き様が時代を反映している部分もあり、
また、逆らってオリジナリティーを貫いている部分もあって、
それが、また親しみを感じる部分でもあります。


丁寧に書かれたリアルな一代記。
ゆっくり読み進むにぴったりの一冊です。

0 件のコメント:

コメントを投稿