「美しい夏」 チェーザレ・パヴェーゼ著 河島英昭訳 岩波文庫
長い間この「美しい夏」を読みたいと思っていました。
タイトルの美しさなのか、パヴェーゼという名前の響きなのか、
この本を好きだと言ったミュージシャンのせいか、
額装された絵のように、この本のタイトルは胸の奥に残されていました。
河島英昭さんが、パヴェーゼに大変思いを寄せておられるのを知ってから、
なおさらその思いは強くなり、
ようやく、河島さんの訳で読めることができました。
まずパヴェーゼの表現方法が気になります。
夏のことを“あの”として既に去った出来事としていること。
“あの”夏は特別な夏であったのです。
そして、ジーニアとアメーリア。
ジーニアはアメーリアであり、またその逆でもあること。
読者はジーニアでもあり、アメーリアでもあること。
それは女性であれば、それもある程度年齢のいった者であればなおさら、
強く感じることができると思われます。
自分自身のことを理解しながら、
夏を過ごし、その後の雪の時期を越えてゆく、
そういうジーニアには、単に物語として終わりを迎えて欲しくないと
強く思います。
堀江敏幸さんの「彼女のいる背表紙」に
〔きみは、夏じゃないんだ〕というタイトルでこの本が紹介されています。
この言葉を書き付けたとき、
パヴェーゼは、どう感じていたのだろうかと、
その後、自分の書いたその言葉を乗り越えることはできなかったのだろうかと、
遠い存在のその人のことを考え、
心が落ち着かない状態です。
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