2009年8月16日日曜日

「イタリアをめぐる旅想」

「イタリアをめぐる旅想」 河島英昭著 平凡社ライブラリー

旅へ出るときは必ず鞄の中にしのばせておく本です。
そして、飛行機や列車で、
しばらくの時間すっぽりと河島さんの旅に同行するのです。

冒頭にあるローマへの再訪は、
これまで勝手に思い描いていたローマとは大変違っていたので、
少々戸惑いつつ、後を付いてゆきます。
その後 「ローマ散策」 岩波新書 で、
河島さんが伝えようとするローマの姿を
捉えなおすことができましたが。

トリノでは、
宿泊先がパヴェーゼの亡くなったホテル。
ここで、河島さんのパヴェーゼに寄せる想いを知らされ、
しかし、詳しいことが述べられていないだけに、
どう振舞っていいのか、宙吊り感覚に陥ってしまいました。
繰り返し読むたびにパヴェーゼの影が少しずつ浮かび上がってきます。

最も好きなのは、
レ・チンクェ・テッレとモンテ・ロッソについて書かれた章です。
海、静寂、夜、夜明け、潮騒、陽射し、猫、小さなホテル、辞書と原稿用紙、
好きな表現ばかりが連なっています。
モンターレのことも少し知ることができました。
このレ・チンクェ・テッレ、最近は画像などでも見られるようになりましたが、
自分の足で一度訪れたいと願っています。

トスカーナ地方、サルディーニャ、クールマイユール、
どこへ行っても、河島さんは落ち着いた視線と思考を持ち、
必ず自分自身との対話を行っています。
“異国に呼吸して、絶えず迫られるおのれの感覚の修正、
おのれの周辺を取り巻く感覚的断層の確認、
そしてそれに拮抗すべき自分自身の感覚的思考”に裏付けられた、
言葉を読むことができることを、感謝しています。

この本では、そのときの河島さんの心理と、
河島さんが語ろうとすること以外は、
知ることができません。
そのことに上記の理由からか、
河島さんはかなり注意を払っておられます。
そういったより私的な“旅想”であることに、
一方的ではありますが、親しみを感じられることが嬉しくて、
またこの本を手にすることになるのです。

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