2010年9月26日日曜日

秋の入り口で

とても涼しくなり、過ごしやすくなりましたね。
あちらこちらで運動会の話題が多い季節です。

暑い時期はぐったり昼寝ばかりしていましたが、
須賀さんのDVDを見て以来、
今度は考え事で頭がいっぱいです。

合間には
「ギリシアの泉」 シモーヌ・ヴェイユ を少しずつ読み、
「天才 柳沢教授の生活 ベスト盤」 で大いに笑い、
「プラテーロとわたし」 ヒメーネス の頁をしんみりと繰り、
「ムーミン谷の彗星」 ヤンソン でどきどきはらはらしたり、
といった日々を送っています。

堀江敏幸さんの「ゼラニウム」の文庫が出ているようなので、
明日は久々に本屋さんへ出向こうかと考えています。
考え事の助けになってくれるかしらん。

2010年9月23日木曜日

「須賀敦子 静かなる魂の旅」

「須賀敦子 静かなる魂の旅」 河出書房新社

以前BS朝日で放送された番組を編集したDVDと、
愛蔵本のセットになったものが出ていました。

DVDは180分。須賀さんがイタリアで過ごした日々、
出会った人々、愛した場所などを著書の朗読を織り交ぜ、
美しい風景の数々が映し出されています。
写真でしか知らなかった場所も数多くあり、
須賀さんが見たであろうアッシジやトリエステの風景に、
そのとき須賀さんの想いが言葉となって流れると、
本を読んだだけではわかっていなかった深い想いが、
じっとりと染み入ってくるようでした。

まだ須賀さんの言葉や想いを読み取れてはいないのだと、
痛感したしだいです。

振り返ってこんな自分はどう生きてきているのか、
これからどうやって生きていくのか、
深いため息とともに考えています。

2010年9月20日月曜日

猫の会話

ミケ 「近頃ツキスミさんご無沙汰ね」
トラ 「そーだね。また寝てるんじゃない?」
クロ 「ちょっと前に庭で見かけたんだけど、シモーヌがどうとか言ってたわよ」
クロ 「シモーヌって、ヴェイユのことかい?」
ミケ 「そうそう、あんな難しい本を読もうっていうのが問題よ」
クロ 「確かにね。それでもギリシアの泉を読もうとしていたから、
    まだ読みやすいと思うんだけど」
トラ 「みんなよく知ってるんだね、名前しかしらないよ」
ミケ 「読むのもいいけど、頭脳を鍛えたほうがいいような気がするわ」
クロ 「よく寝て、よく見て、よく考えることが大切だわ」
トラ 「そうさ、身づくろいもちゃんとしてさ」
クロ 「寝る事だけはしっかりしてそうよ、早くに暗くなっているから」
ミケ 「クロさん、ツキスミさんが気になるのね」
クロ 「よく出会うからよ」
トラ 「それよりさ、昼寝にいい場所見つけたんだよ、日当たりがいいとこ」
ミケ・クロ 「いいわね!早速行ってみましょうよ」

2010年9月13日月曜日

「尼僧とキューピッドの弓」

「尼僧とキューピッドの弓」 多和田葉子著 講談社

あちらこちらで語られているとおり、
この小説は二部に分かれています。
第一部は「遠方からの客」といい、
一人の女性作家がプロテスタントの修道院に滞在し、
そこに住む修道女たちと知り合い、語り合います。
プロテスタントの修道院はどういう場所なのか、
そこに住むようになった女性たちはいったいどのような人なのか。
閉じられていると思い勝ちな修道院というところに、
どのような暮らしがあり、生があるのだろう。
語り手は読者の目となり耳となって覗き込みます。

そこで思いがけない事件を知ることになります。

ここまでは事実に沿ったものだと多和田さんは語っています。

第二部は「翼のない矢」。
事件の中心人物が語ったものなのか、
さてはて遠方からの客であった作家が想像したものなのか、
もう頭から読者は張り巡らされた蜘蛛の糸に絡められていくように、
語りに翻弄されていくのです。

多和田さんが体験したという修道院の出来事でさえ、
本当のこととは思えなくなり、
逆に第二部の内容が最も信頼できることのように感じられてきます。
第一部で女性を外側から描き、
第二部で女性を内面から描いて、
この小説は表裏一体になります。

この小説を読んでみて感じたのは、
多和田さんの作品ではノンフィクション的なものが個人的には
親しみやすいということです。
過去に読んだものも好ましく感じたのは「アメリカ 非情の大陸」でしたし、
「海に落とした名前」だったりしました。
フィクションの部分こそ多和田さんの真骨頂だとは思いますが、
たぶん内包的になっている部分が苦手なのだと感じています。

2010年9月12日日曜日

「グラントリノ」

「グラントリノ」 クリント・イーストウッド監督

久しぶりにDVDを借りてきました。
イーストウッド監督の作品を見るのは2作目。
実に丁寧に作られた映画で、
且つストーリーも巧みに人をひきつける内容でした。
期待を裏切らない素晴らしい作品。

内容を話すのはルールに反するので止めておきますが、
人にとって大切なことをしっかりと骨太く伝えてくれる映画です。
より多くの人々の目に留まりますように。

2010年9月5日日曜日

「浦からマグノリアの庭へ」

「浦からマグノリアの庭へ」 小野正嗣著 白水社

1970年大分県生まれの小野さんは、
作家として「にぎやかな湾に背負われた船」で三島賞を受賞されており、
また、クレオール文学の研究者でもあり、
大学でも教鞭をとっておられる教育者でもある方です。

フランスに長く留学されていた経験を振り返ったエッセイを
新聞に発表されていたものが、この本の軸となっています。
このエッセイでは著者がお世話になった人々を通して見知った
現代のフランスの問題(特に移民排斥問題)と、
作家マリー・ンディアイとのインタビューを取り上げることにより、
現代の社会の持つ隠されがちな人間の尊厳の喪失を、
重要な課題として考えるよう促しておられるように読むことができます。

これらは文学を通して行われる一つの問題提起でもあり、
書かれること、読むことによって理解され、
社会への布石ともなるものだと思われます。

この本では、エッセイのほかに、
数多くの本についてもページが割かれています。

ラブレーの翻訳についてW先生とM先生のことが書かれているのを読めば、
当然ラブレーを読みたくなってきますし、
ボルヘスについての部分を読めば、「図書館 愛書家の楽園」を
読みたくなってきます。

クレオール文学は今のところ縁がないのですが、
どうでしょう、クレオール文学に関するところを読むと、
「にぎやかな湾」を思い出して、大分“浦”⇒東京⇒フランスのミックスで、
小野さん自身クレオール感覚を十分にお持ちではないかと
想像したりします。

“ふるさとについて”という章は、
“ふるさと”らしい“ふるさと”を持たない者からは、
想像をめぐらすのが精一杯です。
デラシネには大江健三郎の本を読むのは困難なのかもと、
思い当たったり、
いやいや、知識と思考と想像力不足だわ、と反省したり、
読んだことのない本についての書評を手を引かれるようにしながら、
初めての読み方、ひも解き方を知ることとなりました。

著者の出身地の大分“浦”からフランスにおける“マグノリアの庭”へ
立ち位置と置かれた場が時間とともにずれてゆき、
さらに開かれた場へと変化しています。

感情面にも揺らぎを与えられ、
読書にも刺激を与えられる、
とても楽しく充実した時間を得ることができました。

2010年9月3日金曜日

これでいいのかな?

この場を借りて、気に入った本たちの感想を
ぼちぼちと書いておりますが、
時々これでいいのかな?と不安になります。

良き書き手による書評を読んでいると、
その本のポイントを押えて引用したり、
著者と書かれた本との関係を考えてみたり、
そこからさらに思考を発展させて、
新たな読みを導き出しています。

もちろんそのような書評をまねることはできませんが、
もうちょっと本の内容がわかるようにして、
そこから感想を述べるというほうがいいかもしれません。

ブログなので、自分の気に入ったように書けばいいのですから、
気にしなくてもいいのかな?

一応は本によって扱い方を考えているのですが、
内容や筋について、もうちょっとわかるようにした方がいいのでしょうか・・・

2010年9月2日木曜日

「思考の整理学」

「思考の整理学」 外山滋比古著 ちくま文庫

この本に書かれていることを本当に実行できたら、
とっても有意義な人生を送れると思います。

学ぶことや思考すること、発想すること等を
手をとって促してくれます。

とてもわかりやすく表現されていて、
読みやすいこともいいところです。

学生に人気があるということですが、
社会人もゆとりを持ってこういう本を読むと
自分のやりたいことの足がかりになるかもしれません。

時々ページを繰って復習して、
活かすことができたら、と思います。

メモ、ノートの作り方などは、
明日からでも参考にすることが可能です。

といいながら読んだ先から忘れていくのが、
忘却の恐ろしさ。
アイデアを自分のものにするには、
身体に覚えさせることでしょうか。

2010年9月1日水曜日

「戦禍のアフガニスタンを犬と歩く」

「戦禍のアフガニスタンを犬と歩く」 ローリー・スチュワート著 高月園子訳 
 白水社

この本のタイトルは判断に誤りを起こしてしまいそうな印象があります。
このタイトルには確かに間違いはありませんが、肝心な内容が伝わってこない。
原題は“The Places in Between”、シンプルにこのままの方がいいように思われます。

著者のローリー・スチュワートはスコットランド出身。
大学卒業後、陸軍、外務省に勤めた経験を持つ若きイギリス人です。
2000年のある日、散歩していて「このまま歩き続けたらどうだろう」と考え、
その年イランを出発し、インド、パキスタンを経由しネパールまでアジア大陸を
横断する全長9600キロの旅にでたのです。
途中タリバン政権にアフガニスタンへの入国を拒否され、
アフガニスタンは後回しとなりました。
2001年にアメリカ同時多発テロが発生し、タリバン政権が崩壊、
その当時ネパールに到達していた著者は急ぎアフガニスタンへ行き、
真冬に西のヘラートから東のカブールまでの直線距離を辿り始めることにしたのです。

まだタリバン政権の崩壊から間もないアフガニスタンは、
多数の宗派のイスラム教徒からなり、人々は貧しくつつましく暮らしています。
もちろんTVなどの情報源もなく、大変な危険を伴っていたはず。
そういったアフガニスタンの現状を知ることもこの読書の与えてくれるものです。

そういったアフガニスタンの様子を知るつもりで読み出したのですが、
読み進めるにつれ、次第にこの旅人=著者の振る舞いや思考と知識、
行動力に圧倒されるようになっていきました。
知識人でとても冷静、判断力にも優れた人であることが伝わってきます。
このような人物が世界で活躍していくのだろうと、
想像するだけで、未来が明るく見えてくるほどです。
同じような旅をしたとしても、人によって得るものは異なるでしょう。
この旅人=著者は自らの持つ人間性によって多くのことをさらに知り、
体験して、それを元に今後アクションを起こしていくのだと思います。

そのような人物の魅力に加え、大切なお供の一頭の犬が、
旅人=著者の感情面を豊かに伝えてくれます。

とても読み応えのある一冊でした。