2012年5月14日月曜日

「北の古文書」



「北の古文書」 マルグリット・ユルスナール著 小倉孝誠訳 白水社

この「北の古文書」はユルスナールの“世界の迷路”と題する
家系図を辿った回想録のような年代記。
2巻目は父、ミシェル・ルネ・クレーヌヴェルク・ド・クレイヤンクールの先祖側に
光を当てています。

第一部は依然にも取り上げたように太古からルーベンスの時代までを描いており、
それは途方もない想像力が必要となります。
もちろん歴史や地理の知識が土台となるので、もうお手上げです。
何もわからないので、ちんぷんかんぷん、お芝居でも観ているような感じです。

第二部に入って祖父ミシェル・シャルルの時代になると、
手記が残されていることや、資料の質、量の変化からか、
人物像が明確になり、出来事も立体的につかめるようになってきます。
当然のことながら、読みやすく、面白く読めるのでした。
とはいえ、その当時を比較できるのもバルザックの作品の登場人物だったりするので、
まだまだ想像の域を超えません。

第二部の後半にユルスナールの父ミシェルの姿が現れてきます。
真面目そうな祖父と比較して、ミシェルは本能的に生きているような感じです。
貴族の末裔らしく、実質的なことには見向きもしない態度は、
これまたプルーストの小説に出てきそうな気配です。
これくらいの時代になると写真もありますから、少しずつわかりやすくなり、
滑らかに読み進めることができますが、そのユニークさには感心しきりです。
もうユルスナールのノマッド精神が父から受け継いでいるのだとすぐにわかります。

読みが浅いので、なぜだか解明できませんが、
母親の祖先を描いた1巻目と父親を描いた2巻目はどこか違いがある。
父親とは長く一緒に過ごしたから、と言えば、ユルスナールにそれは軽率だと
指摘されそうですが、何か力がこもっているような気がするのでした。
もっと根底に違いがあって、分析が足りないだけでしょうが。

残りは第3巻。まだ未発売。堀江敏幸さんの訳。
どんな内容なのでしょう。
この3冊を読みこなすのはかなりの時間と努力を必要とするでしょう。
3冊揃ったところで、また落ち着いて本を広げ、読み返すことができるといいのですが。

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