2012年8月29日水曜日

「花咲く乙女たちのかげにⅡ」


「失われた時を求めて」第4巻
“花咲く乙女たちのかげにⅡ” マルセル・プルースト著 鈴木道彦訳 集英社文庫

第3巻で海辺のバルベックに祖母と避暑にやってきた“私”。
始めは想像との違いに少々落胆した様子でしたが、
滞在客のヴィルパリジ侯爵夫人が祖母と旧友だということから交際が始まり、
それに伴い少しずつグランド・ホテルでの生活に慣れていきます。

ヴィルパリジ夫人とのやりとりは会話を始めとして、
果物の贈り物など、なんとも上品で、上流階級の在り様を垣間見たような
感じです。“なんて素敵なことだこと!”
馬車での散歩などにもお供します。
とにかく“私”は繊細で感じやすく、すぐ思いにふけっている様子です。
そこへ現れた青年侯爵サン=ルー、とてもスマートで心優しい人らしく、
“私”とはすっかり打ち解け、親しい交際が始まります。
実に素敵なサン=ルーにこちらもうっとりとしてしまいました。

新たにこの小説で重要な役割を持つシャルリュス男爵が登場します。
ヴィルバリジ夫人の甥ということですが、上流社会でもその存在感は
他を圧倒するほどの性格とセンスを持ち合わせているらしく、
一体どういう人間だろうかと期待を持たせます。
これがまたはっきりいって変人、奇怪といっていいような
妙な雰囲気の男性でした。
“私”も少々困惑します。

このようにゲルマント一族と知り合いになるきっかけとなったバルベック。
さらに重要な出会いが待っていました。

海岸で出会った少女たちです。
この巻の後半は彼女たちを巡ってすすみます。
中でもアルベルチーヌに思いをよせるようになった“私”。
彼女たちとの交友で頭がいっぱい(?)のようです。

筋書きとしてはこのようなところかと思いますが、
そうそう、画家のエルスチールと親しくなったことも忘れてはいけません。
絵を観ることについて“私”は思考し、エルスチールの絵を高く評価します。
その思考の中身が一つのポイントです。
この巻はほぼ絵画のように描かれていることも美しく感じられるところでしょうか。
そこはプルーストの狙いがあったのかもしれません。

言葉で情景を描き、心理を描く。
逆の凄まじさを表現することも、重いように描くこともできますが、
プルーストは一貫して理性によって感情をコントロールし、
理性を持って物を見つめ、言葉を選んで事実を書き綴っています。
時によっては平坦な表現が続くことにもなり、
“私”ではない読者は戸惑いを感じることも多いかと思います。
そういう時には、整然と整理された言葉の海に身をゆだねるようにしています。

多くの人々と出会い、遊び、祖母を大切にしながら過ごした3か月も
終わりが来て、バルベックもシーズンを終えようとしています。
人々も次々と去っていきました。

最後に“私”は馴染んだ自分の部屋の情景を描写し、
その夏の光の美しさがまるでもう終わってしまったかのように締めくくっています。

取り上げ始めたら、終わりがないくらい、
たくさんのポイントがある小説なので、
これを一つ一つ分析するのは大変困難でしょう。
読者はこの一か所ごとに自分を投影したりして、楽しむことができますが、
時間と“私”の行動とともに、大きな流れに沿って漂うのが、
一番楽しめるような気もします。

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