2009年10月20日火曜日

「春の戴冠」とボッティチェリ

秋の静けさの中で集中力を持続させながら
冷静に読める本をと選んだのが、
「春の戴冠」 辻邦生著 中公文庫 です。
ボッティチェリの生涯を描いた小説とのことで、
厚めの4巻物と読み応えがありそうです。

ある時から意識をして見るようになった画家の絵があります。
ぼんやりとしていても、
視野に入ると自然にそちらに反応してしまう絵だったのです。
それらはアートの世界のみならず、
本やメディアでもよく使われているボッティチェリの絵でした。

あまりにも有名な作品の数々を
実際にはほとんど観た事がありません。

一度、秘密にしたいような出会いがありました。
ルーブル美術館で偶然ボッティチェリのフレスコ画を見つけたのです。
ルーブルのことなので、多くの人は大作の方に押しかけていて、
このフレスコ画のあたりはひっそりとしていました。
何気なく横道に逸れてその絵を見出した時は、
思わずため息が漏れました。
もちろん大抵の方はご存知なのでしょうが、
存在を知らなかった者には
天からの贈り物のように感じました。

このフレスコ画のことを、
松浦寿輝さんも 「クロニクル」 東京大学出版会 の中で、
“その剥落や色褪せにもかかわらず戦慄的に美しい-
いや、にもかからずではなくむしろ剥落や色褪せのうちに
胚胎される時間の厚みの手応えのゆえに、
かえってよりいっそう美しいと言うべきか”
と深い想いを述べておられます。

美しさを愛でるためにも、
ボッティチェリの人生を、
辻邦生さんの案内で辿ってみたいと思います。

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