2016年2月17日水曜日

「現代小説クロニクル1975-1979」

「現代小説クロニクル1975-1979」 講談社文芸文庫


このシリーズの編集委員という人達がいます。
その方々が最終的に収録作品を選んでいるのでしょう。
川村 湊
佐伯 一麦
永江 朗
林 真理子
湯川 豊
以上の方々が
日本文藝家協会を代表して、ということになりそうです。
顔ぶれがなかなか興味深いと思われます。


さて、このシリーズの第一弾である本作の収録作品は


岬  中上健次
髪の環 田久保英夫
幸福  富岡多惠子
僕って何  三田雅広
ポロポロ  田中小実昌
玉、砕ける 開高健
遠い座敷  筒井康隆


以前にも記したとおり、
中上健次の作品は、知識にあったとおり土着性が高く、
真実味に強く、圧倒されるものでありまして、
私には、中身が濃く、読みづらかったのが、
自分自身残念です。
こういう作品が文学には必要だと思っています。
自分が苦手なだけでして。


僕って何、という作品については、
以前から関心があったのですが、
内容から考えると、文体表現は品よくまとまっていて、
意外な感じがしました。
現在の若い方の押しの強い作品から考えると、
とても控えめですね。


ポロポロ、これは、想像外の内容でした。
タイトルは知ってはいたものの、こういった意味だとは、
思いもしなかったです。
それを一つの短編に仕上げてしまうとは。
文学の可能性を広げるものでもあると思われました。


開高健の作品も、活躍に納得できる一編です。
力強く、リアリティのある作品です。


最後の筒井康隆の一編は、実にうまい。
この作家の凄さは皆さんご承知かと思いますが、
どんなテーマをもってしても、
自分のものにして、新たなストーリーを展開させることができる、
稀有な作家ですね。


全体を通してみれば、
戦後の世代が活躍し始める第一歩が、
この時代くらいだったようにも感じられます。
このシリーズが1975年から始めたのは、
「文学の世界において、時代を動かすような波が押し寄せてきた」
とのことです。
ここにある「岬」で中上健次が芥川賞を受け、
翌年には村上龍が同じく芥川賞を受賞しています。
私たちにも見えてくる時代ではありますね。


このシリーズを通して読むことで、
よい作品と出合う実質性もあり、
時代を俯瞰することもでき、
なかなか面白い体験です。

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