2013年4月29日月曜日

「ことり」


「ことり」 小川洋子著 朝日新聞出版

雑誌等の連載ではなく、書き下ろしということもあってか、
全体のバランスが絶妙によい作品です。
もちろんいつもの小川さんの気持ちを丁寧に扱った描写や、
身体の動き、しぐさ、それらがことりにまで移っているかのような、
やさしさが溢れる作品です。

やさしさだけではない、現実のもつ厳しさを冷静に綴っているのも
小川さんの特徴でしょう。

読み出しの部分ではなかなかわかりませんが、
読んでいくと、いくつものエピソードが主人公に深く刻み込まれて、
名もない主人公の気持ちに寄り添っていくことができます。
そして、始まりの部分に戻って、
ああ、そういうことだったのか、と納得がいくのも、
読者としてはとても安心できる内容になっています。

いくつものエピソードも思いがけないことばかりだし、
アイデアが奇想天外なのですが、
何故か小川さんが言葉にすると自然に感じられるから不思議です。

小川さんだけが紡ぐことのできる他には無い世界。
これが小川さんを読む理由になるのです。

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