2010年4月18日日曜日

「シルトの岸辺」

「シルトの岸辺」 ジュリアン・グラック著 安藤元雄訳 ちくま文庫

中世イタリアの都市国家を思わせる共和国オルセンナ。
敵国のファルゲスタンとは海を隔てて、
もう300年も対峙している。

主人公アルドーは僻地シルトの海岸へ、
監察将校として赴任する。

物語はアルドーの視点から、
夢うつつと緊張感の織り交じった
オルセンナと前線であるシルトが
描かれます。

まるで眠っているかのように思える状態なのですが、
少しずつ時間は動いています。
見えないものをその手で確かめようとするうち、
アルドーはその眠っているような見えないものの感触を知り、
オルセンナの行く末を悟ることになります。

この物語の特徴は独特の文体にあるでしょう。
訳者はあとがきでこう述べています。
 “比喩に比喩を重ねて多層的なイマージュを生み出しながら、
  中世的な古めかしさやバロック的な華やかさを併せもち、
  しかも決して読者に馴れ馴れしい態度を許さないだけの
  格調をもつ文体である。”

じわりじわりとこの物語に引き込まれて、
オルセンナとシルトに生きているような気分に
なっていきます。
グラッグが構築する、
なんとも例えようの無い世界。
言葉だけで、未知の世界を作り上げることの凄さ。
小説家としての見事な仕事だと、
ため息をつきました。

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