2009年9月2日水曜日

「ブラフマンの埋葬」

「ブラフマンの埋葬」 小川洋子著 講談社文庫

先日小川さんの「ミーナの行進」を読みました。
芦屋が舞台で、従姉妹の少女2人が中心となって
不思議で忘れられない日々を送る話でありました。
奇妙なことや、不可思議なことがたくさん起こるのに、
ちっとも違和感がないところが、
小川さんの手腕です。

これ以外にも小川さんの作品は少しばかり読んでいるのですが、
一番の好きな作品が、「ブラフマン」。

“僕”とブラフマンとの出会いから別れの日々の話です。
“僕”は相手の心を汲み取ることのできる稀有な人で、
ブラフマンにも同じように目を覗き込んで、
声を出さない彼の気持ちを考慮しつつ、
仕事に励み、ブラフマンとの時間を過ごしていきます。

その中には、
何かが隠されていて、
何かが起こりそうで、
はらはらしてしまいます。

隠されているというより、
命のあるものは明確な形態と名前を持たず、
不明であることから、神秘性を生み出しています。
ブラフマンもどんな生き物であるのか、
“僕”のメモから推察するしかありません。

小川さんの作品の好きなところは、
その神秘性と、繊細さ、そして根底にある暖かさにあります。
ゆえに大切に手に包んで守りたくなるような気持ちになります。
そして、いつまでも本の中の世界が持続しているような錯覚に陥ります。

巻末の奥泉光さんによる解説では、
この作品の妙味と小川さんの技術について語られています。

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