「黒の過程」を読み始めました。
ユルスナールの本は大切に少しずつ、
コンディションを整えて、読むようにしています。
「黒の過程」を読むのは初めてですので、
慎重に歩を進めることにしましょう。
冒頭、齢16歳のアンリ=マクシミリアンが
元帥を夢見て、故郷ブルージュを発つところから始まります。
途中、一人の巡礼に出会いますが、
それは顔見知りのゼノン、彼こそが主人公です。
続いてゼノンの出生について、
青年期の出来事が語られます。
今日は82ページまで。
ゼノンという人が若い頃どのような人物であったのか、
彼が生きたのはどのような時代であったのか、
知ることができました。
時代背景についても重要なのですが、
全てを明らかにするのはよしておくことにして、
前者については、
アンリ=マクシミリアンに語った言葉により、
暗示されているかと思います。
“-・・・別の人が余所でぼくを待っている。ぼくはそっちのほうへ行く。
そして彼はまた歩きはじめた。
-誰が? 仰天してアンリ=マクシミリアンが尋ねた。・・・
ゼノンが振り返った。
-Hic Zeno と彼は言った。このぼく自身さ。”
早速、ゼノンという人物に関心が湧いてきました。
ユルスナールの人物造詣も素晴らしいのですが、
表現力もまた酔わせるような素晴らしさです。
“しかしながらゼノンは徐々に、彼らにとって、・・・
要するにひとつの名前にすぎなくなっていった。
いや、ひとつの名前どころか、彼ら自身の過去の、
不完全で生命力を失った記憶のいくつかが、
ゆっくりと腐っていく貯蔵瓶に貼り付けられた一枚の
ラベルに過ぎなかった。二人は依然としてゼノンの
噂をし合っていた。しかし実は彼を忘れてしまったのだった。”
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