2009年9月18日金曜日

「黒の過程」~その①

「黒の過程」 マルグリット・ユルスナール著 岩崎力訳 白水社

「黒の過程」を読み始めました。
ユルスナールの本は大切に少しずつ、
コンディションを整えて、読むようにしています。
「黒の過程」を読むのは初めてですので、
慎重に歩を進めることにしましょう。

冒頭、齢16歳のアンリ=マクシミリアンが
元帥を夢見て、故郷ブルージュを発つところから始まります。
途中、一人の巡礼に出会いますが、
それは顔見知りのゼノン、彼こそが主人公です。
続いてゼノンの出生について、
青年期の出来事が語られます。

今日は82ページまで。
ゼノンという人が若い頃どのような人物であったのか、
彼が生きたのはどのような時代であったのか、
知ることができました。
時代背景についても重要なのですが、
全てを明らかにするのはよしておくことにして、
前者については、
アンリ=マクシミリアンに語った言葉により、
暗示されているかと思います。
 
  “-・・・別の人が余所でぼくを待っている。ぼくはそっちのほうへ行く。
  そして彼はまた歩きはじめた。
  -誰が? 仰天してアンリ=マクシミリアンが尋ねた。・・・
  ゼノンが振り返った。
  -Hic Zeno と彼は言った。このぼく自身さ。”

早速、ゼノンという人物に関心が湧いてきました。

ユルスナールの人物造詣も素晴らしいのですが、
表現力もまた酔わせるような素晴らしさです。

  “しかしながらゼノンは徐々に、彼らにとって、・・・
  要するにひとつの名前にすぎなくなっていった。
  いや、ひとつの名前どころか、彼ら自身の過去の、
  不完全で生命力を失った記憶のいくつかが、
  ゆっくりと腐っていく貯蔵瓶に貼り付けられた一枚の
  ラベルに過ぎなかった。二人は依然としてゼノンの
  噂をし合っていた。しかし実は彼を忘れてしまったのだった。”

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