ゼノンはブリュージュにて身を潜めながら、
終わりのない思考を重ねてゆきます。
その中で、
“彼のなかではほとんど目につかない変化が起こりつつあった。”
そして、
“彼自身知らないうちに地滑りが起こっていた。
真っ暗な夜の闇のなか、流れに逆らって泳ぐ人のように、
どれだけ岸から押し流されたかを正確に測る目印が
彼には欠けていた。”
彼の思索の旅は過去を遡り、最も主要とする研究に向けられながら、
続けられてゆきます。
《opus nigrum》(黒の過程)とは、
彼が若い神学生のころ、ニコラ・フラメルの著作のなかで読んだ
化金石の探求のなかでもっとも困難な部分、
形態の溶解や焙焼の試みの描写であり、
人によると、人が望むと望まざるとにかかわらず、
条件が満たされさえすれば、その変化は自然に起こると
聞いていたようです。
その錬金術のこの分離について、
ゼノンは省察をめぐらせ、事物の実態をもって実験し、
その結果、錬金術という冒険の次の段階を見据えるようになり、
“壁の亀裂の底から空想の怪獣が生まれつつあった。
彼は大胆に肯定した。かつて大胆に否定したのと同じように。
突然彼は足を止め、満身の力で手綱を引いた。・・・”
黒の過程という言葉が始めて出てきたのですが、
意味するところは、実際に読む必要があります。
今日読んだ「深淵」に続く章は、
ゼノンという人物とよく知り合える部分です。
引用したい部分は多すぎるので、あっさり諦めます。
ユルスナールの分身ともいえるゼノン、
冷静沈着であって、情念をも秘めた人。
慎重に身を隠していたのですが、
ついに立ち去る時がやってきます。
町を出る前日の夕方に聴いたロラン・ド・ラシュスのモテットは、
実際に存在するのでしょうか。
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