2009年9月22日火曜日

「黒の過程」~その⑤

「黒の過程」 マルグリット・ユルスナール著 岩崎力訳 白水社

ゼノンはブリュージュにて身を潜めながら、
終わりのない思考を重ねてゆきます。
その中で、
 
  “彼のなかではほとんど目につかない変化が起こりつつあった。”

そして、
 
 “彼自身知らないうちに地滑りが起こっていた。
  真っ暗な夜の闇のなか、流れに逆らって泳ぐ人のように、
  どれだけ岸から押し流されたかを正確に測る目印が
  彼には欠けていた。”

彼の思索の旅は過去を遡り、最も主要とする研究に向けられながら、
続けられてゆきます。

《opus nigrum》(黒の過程)とは、
彼が若い神学生のころ、ニコラ・フラメルの著作のなかで読んだ
化金石の探求のなかでもっとも困難な部分、
形態の溶解や焙焼の試みの描写であり、
人によると、人が望むと望まざるとにかかわらず、
条件が満たされさえすれば、その変化は自然に起こると
聞いていたようです。
その錬金術のこの分離について、
ゼノンは省察をめぐらせ、事物の実態をもって実験し、
その結果、錬金術という冒険の次の段階を見据えるようになり、

 “壁の亀裂の底から空想の怪獣が生まれつつあった。
  彼は大胆に肯定した。かつて大胆に否定したのと同じように。
  突然彼は足を止め、満身の力で手綱を引いた。・・・”

黒の過程という言葉が始めて出てきたのですが、
意味するところは、実際に読む必要があります。

今日読んだ「深淵」に続く章は、
ゼノンという人物とよく知り合える部分です。
引用したい部分は多すぎるので、あっさり諦めます。

ユルスナールの分身ともいえるゼノン、
冷静沈着であって、情念をも秘めた人。
慎重に身を隠していたのですが、
ついに立ち去る時がやってきます。
町を出る前日の夕方に聴いたロラン・ド・ラシュスのモテットは、
実際に存在するのでしょうか。

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