2014年11月2日日曜日

「霧の向こうに住みたい」

「霧の向こうに住みたい」 須賀敦子著 河出文庫


どのエッセイのエピソードも、
ずいぶんと前のことだと思われるのに、
すぐ目の前で繰り広げられているシーンように感じられます。


彼女、ミーナやビアンカがいきいきと声をかけ、
須賀さんがにこにことそれに応えている。

また、その場所に立ち、眼前にその建物がたっていたり、
ゆっくりと階段をのぼっていたり、
まるで、つい最近経験したばかりのことのように。


これらは須賀さんによって言葉と文章に置き換えられて、
そのまま時間が止まっているかのように息づいているのだと、
気が付いたのでした。
思い出なのだけど、今も息づいている。


あまりに思いが深くて、
言葉や文章にされていても、自ずとそれが伝わってくる。
随筆の醍醐味を味わうことができるのでした。


また、他のエッセイに書かれているささやかな事柄が、
ここではメインテーマになっていたりして、
あぁ、白い本棚はこうして出来上がったのだな、とか、
めずらしく登場する料理オッソ・ブーコはこの本が出会いだったのだ、とか、
須賀さんのエッセイの補助的な役目も果たしてくれています。


それにしても、心の豊かな方だったのだと、
読み終えて、溜息をついています。

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