2014年8月5日火曜日

「イタリアの詩人たち」 ウンベルト・サバ


「イタリアの詩人たち」 須賀敦子著 青土社


ウンベルト・サバ 1883-1957
  
   「ユリシーズ」 1946
   
    若いころ おれは ダルマチアの
    沿岸で 海を渡った。 波がしらに
    小さな島々が 見えかくれして まれに
    鳥が一羽 獲物を狙って 羽を休めた。
    藻に被われた 島々は ぬるぬるして
    エメラルドのように 太陽に燦いた。 満ち潮と
    夜が すべてを消し去ると 風下の
    帆は その陰険な陥し穴を避け
    はるか沖合に はためいた。 今日
    おれの王国は あの NO MAN'S LAND 港は
    他人のために 灯りをともし まだ 意地をはる
    精神と 傷だらけの人生への 愛が
    おれを 沖へと 突き返す


          (「地中海」より 1946)


イタリアの北東の端にぽつんと離れたトリエステに、
ユダヤ人の母を持って生まれたサバ。
生地トリエステとユダヤの血に愛着を持ったサバ。
なので、トリエステという街がどういうところであるのか、
少々知識が必要でしょう。


初期の詩は愛情に包まれた言葉たちがやさしく語りかけています。
人に寄り添うことのできる、苦しみと哀しみを知っている者の言葉。


須賀さんは無くなった夫とともにサバをとても愛していたそうです。
その話は須賀さんの本に登場します。
だからきっと大切なペッピーノと大好きなサバとトリエステは、
しっかりと結びついていたのでしょう。


ここではそのような表情はあらわさず、
冷静な分析がなされています。


 このトリエステ生まれの詩人が、ロマンチシズムや写実主義の影響を
 脱するのが、他の作家たちに比べて晩かったという意味では、この批判は、
 まったくの的外れとは言い切れない。サバはこの誤解をとくために、
 満々たる自信をもって二つの武器を用意した。
 レオパルディの流れを汲む純粋なリリシズムと、
 正調な見事な韻律とがそれである。


そこへサバの姿勢と生き方とが重なって、


 彼の作品は、深い心の痛みとは反対に、否、心の痛みを勇気をもって
 正面から見据える者にだけ与えられる、あの奇蹟的な力によって、
 重い果実のように円熟し、彼の個性は確かな普遍の世界を克服していった。


と須賀さんは書かれています。


詩が苦手な私でも、サバの詩は染み入るような味わいがあると、
感じられ、その分親しみを覚えることができました。


みすず書房からは「ウンベルト・サバ詩集」が須賀さんの訳によって出ています。
こちらはまた訳に違いがあるそうです。
他の詩も読んでみようかな、と思っています。

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