2014年9月3日水曜日

「その街の今は」

「その街の今は」 柴崎友香著 新潮文庫


「春の庭」で芥川賞を受賞されたばかりの著者による
2008年発表の作品です。


舞台が大阪・ミナミであり、
また主人公の若い女性が大阪の街の遍歴を写真で追っているという筋が
メインになっていて、ミナミ界隈が好きな人にはとても楽しめる一冊です。


主人公の歌ちゃんが働いていた会社が倒産して、
ミナミにある若い人達のアート作品なども展示しているカフェでバイト中、というのも、
不景気の大阪を反映していたり、
友達と合コンしたり、その後は遅くまでお茶したり、クラブへ行ったりというのは、
今の若い人の行動がよく見える様子となっています。


ミナミに出かけるようになって30年以上という私にとっては、
懐かしい場所もあり、うなづける描写があったり、と
とても親しめる作品でありました。
ほとんどの場所が目に見えるようにわかる小説ってあまりないでしょうね。


街の写真など情報を教えてくれたりもする、
どことなく馴染める感じの良太郎と入った喫茶店、
これはきっとキャビンでしょう。


その直前に出てくる白いお庭のあるお家。
これはたぶん私が通った歯医者さんです。
20年前でもそのあたりで、小さな一戸建ての白いお家は目立ちました。
とっても優しく、丁寧に治療してくれた歯医者さんでした。


ミナミには、え?と思うような一角が、まだ少しだけ残っていたりします。
確かに古いビルも建て替えられたり、
新しいお店になっていたり、
こんなところが繁華になっている!と驚いたり、と変化の方が多いので、
それだけに、ほんわかとした場所が残っていると、
妙にうれしかったりします。


主人公のように、きちんと昔の写真を集めたりしたりはしませんが、
「昭和の大阪」という写真集が売れているように、
場所と時間をなぞるように、自分の位置を振りかえったり、
街そのものの変化を味わったりする人は、
私だけでなく、数多くいるのかもしれません。

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